研究論文の理論的論拠の書き方(具体例付き) 

by Paperpal
Share it on FacebookShare it on TwitterShare it on LinkedinShare it on Email
research rationale

研究の理論的根拠とは、端的に言えば「なぜ当該研究を実施するに至ったか」という根本的な理由付けを指す。この論理的根拠は読者に対する研究の背景説明として機能し、研究対象分野における既存の状況認識と、研究によって明らかにしようとする未解決の課題やギャップを明確に示すものである。言い換えれば、研究の理論的根拠は「なぜこの研究を行うのか」という問いに対する明確な回答を提供するものである。優れた研究の理論的根拠は、簡潔で説得力があり、かつ明瞭であるべきであり、研究実施の正当性を十分に説得力をもって伝えるものでなければならない。 

適切に作成された研究の理論的根拠は、読者に対して当該研究の新規性と関連性についての正当性を立証することができる。この理論的根拠は、研究を遂行した理由や採用した方法論について、読者を納得させるものでなければならない。さらに、説得力のある理論的根拠は、研究者としての専門性と当該研究対象分野に対する深い理解を示すことで、研究の信頼性を高める効果もある。これにより、将来的に同様の研究を参照しようとする他の研究者にとっても、有益な情報源としての価値が高まることになる。 

本稿では、読者が研究の意義とその実施・提案に至った理由を十分に理解できるよう、明確で説得力のある研究の理論的根拠を策定することの重要性について論じる。 

研究の理論的根拠とは何か? 

説得力のある研究の理論的根拠は、研究の新規性と重要性を読者に効果的に伝えるために不可欠です。学術論文において、この正当性は通常序論の一部として記載され、既存研究の状況と研究上の空白点について論じるセクションです。この部分では研究背景を説明し、読者が研究の文脈を理解できるよう基盤を提供します。なお、研究の正当性は「理論的根拠」とも呼ばれますが、後述する問題定義とは本質的に異なる概念であり、以下の表にその違いを示します。 

研究の理論的根拠問題定義 
研究を実施する必要性や正当性を示すもので、研究対象分野における知識のギャップを明らかにし、当該研究がそれらのギャップをどのように解消できるかを具体的に説明する。 研究の目的や解決すべき課題を明確に記述した具体的な声明。研究の理論的根拠は、問題定義で示された課題の解決を目的として構築される。 
研究を実施する「理由」に対する回答  研究の「内容」に対する回答 
より一般的な内容で、背景情報、知識のギャップ、文献レビュー、研究方法など、研究の全体像を提供する。より具体的な内容で、現在取り組んでいる課題そのもののみを記述する。 
説得力があり、主観的な要素を含み、より長文である必要がある。 具体的で簡潔な表現が求められる。 

研究の理論的根拠は、研究計画書、学術論文、博士論文、研究助成金申請書、学会発表論文など、様々な学術文献において一般的に記載される要素である。適切に構成された研究理論的根拠は、明確性・簡潔性・包括性・関連性を備えている必要がある。記載すべき分量は、掲載される学術文書の種類や出版社の規定によって異なる。通常、この理論的根拠は序論セクションの末尾、あるいは背景説明セクションに配置される。以下の表に、総語数に対する典型的な割合を示す。 

学術論文研究目的の記述量(総語数に対する割合)
研究提案書10~20%(序論の一部として) 
博士論文5~10%(序論または文献レビューの部分)
学術雑誌論文5~10%(序論の部分)
研究助成金申請書10~15%(研究の意義に焦点を当てて)
学会発表論文5~10%(序論の部分) 

研究の理論的根拠の重要性 

説得力のある根拠には、以下の要素が不可欠です: 

  • 既存研究における研究上の空白点を明確に特定する 
  • 研究課題を明瞭に定義する 
  • 研究がどのように当該課題の解決に寄与するかを簡潔に説明する 
  • 研究をより広範な研究視点と関連付ける 
  • 研究の意義とその学術的影響について記述する 
  • 説得力があり、論理的に納得のいく内容である 

研究根拠の主要構成要素 

以下に、研究根拠を構成する主要な要素を挙げます。 

背景説明 

「なぜこの研究を行うに至ったか」という問いに答える部分です。このセクションでは、当該研究分野において既に実施されている研究内容を説明します。文献レビューから得られた知見を要約することで、以降の研究根拠の文脈を設定します。 

問題定義 

ここでは、既存研究における研究上の空白点を明確に特定し、解決すべき具体的な課題を明示します。 

正当性と関連性について 

本セクションは研究の理論的根拠の核心部分を形成し、前節で指摘した研究上のギャップに対処する必要性を論理的に説明する役割を担います。具体的には、当該研究がもたらす影響とその意義について詳細に記述することでこれを達成します。 

研究目的と方法論 

前節の内容を踏まえ、本セクションでは研究の具体的な目的あるいは達成目標を明示します。「どのような研究課題を設定し」「どのようにアプローチするのか」という問いに対して明確な回答を提示します。

 

研究論文の理論的根拠作成手順ガイド 

以下に、体系的で説得力のある研究理論的根拠を作成するための段階的な手順を示します: 

  1. 研究背景の設定: 研究テーマに関する基礎的な情報を提供し、関連する既存研究の概要または主要な知見を簡潔にレビューします。 
  2. 既存研究のギャップの特定: 現在の研究が未解明のまま残している具体的な研究上の空白点や課題を明確に指摘します。これらのギャップは、本研究の必要性を裏付ける根拠となります。 
  3. 研究の意義の説明: これらのギャップや課題に取り組むことの重要性について論じます。さらに、直接的な関係者への影響だけでなく、より広範な社会的・学術的意義についても考察します。 
  4. 研究目的の明示: 本研究が達成しようとする具体的な目標を明確に定義します。これにより、研究の方向性が定まり、特定された研究ギャップにどのように対応するのかが明らかになります。 
  5. 方法論的アプローチの正当性の説明: 採用する研究手法について簡潔に説明し、それらが研究目的に対して適切である理由を論理的に示します。これにより、研究手法の実現可能性と妥当性を実証します。 

研究論文における理論的根拠の具体例   

これまでに述べてきた内容をより深く理解するため、様々な分野における研究意義の具体例をいくつか紹介します。各研究の構成が、本記事前半で解説した各構成要素に基づいてどのように展開されているかに注目してください。 

教育学修士論文の事例 

タイトル:初等教育におけるオンライン学習の有効性について 

The COVID-19 pandemic forced schools worldwide to shift to online learning. While many studies focus on university students, research on its effectiveness in primary education remains limited. Younger students require interactive learning environments, yet digital platforms often fail to replicate classroom engagement. 

This study examines how online learning affects academic performance and social development in primary school students. It fills a critical gap by comparing learning outcomes in traditional and digital classrooms. Findings will help educators refine e-learning strategies, ensuring that technology supports rather than hinders early childhood education. 

医療分野における学術論文 

タイトル:がん早期発見における人工知能の役割 

Early cancer detection significantly improves survival rates. Traditional diagnostic methods rely on imaging and pathology reports, which can be subjective and prone to human error. Recent advances in artificial intelligence (AI) offer promising solutions for enhancing diagnostic accuracy. 

Despite AI’s potential, few studies assess its real-world effectiveness in clinical settings. Most research focuses on algorithm development rather than patient outcomes. This study evaluates AI-assisted diagnostic tools in hospitals, comparing accuracy, efficiency, and patient impact. Findings will contribute to integrating AI into medical practice, ultimately improving early cancer detection rates. 

工学分野における研究助成金申請書 

タイトル:手頃な価格の住宅向け持続可能な建築材料 

Housing shortages and environmental concerns highlight the need for sustainable, affordable building materials. Traditional construction methods rely on resource-intensive materials like concrete and steel, which contribute to carbon emissions. 

While alternative materials exist, research on their cost-effectiveness and durability is limited. This study evaluates the feasibility of using recycled and bio-based materials in low-cost housing. By assessing structural integrity, insulation properties, and environmental impact, this research aims to develop practical, sustainable solutions for affordable housing. Findings will support government policies and industry adoption of eco-friendly construction methods. 

研究の理論的根拠作成時に避けるべきよくある誤り 

研究の理路的根拠を作成する際、著者は意図せず重要な情報を省略してしまうことがあります。これを防ぐため、著者が陥りがちな典型的な誤りをまとめたチェックリストをご紹介します。 

  • 問題定義や研究上のギャップを明確に示さず、読者にとっての文脈を提供できていない。 
    • 例:「ソーシャルメディアは広く研究されているテーマであり、これまでにも多くの研究が行われてきました。本研究では思春期の若者におけるソーシャルメディアの利用実態を調査します」 
    • 改善例:「これまでの研究ではソーシャルメディアが思春期のメンタルヘルスに及ぼす影響が調査されてきましたが、Instagramの利用がこの関係性において具体的にどのような役割を果たしているかについてはほとんど研究がなされていません」 
  • 研究の意義や影響を過大に主張したり、非常に曖昧に記述したり、あるいは全く言及していない場合。 
    • 例:「本研究ではInstagramの利用と思春期のメンタルヘルスの関連性を調査します」 
    • 改善例:「Instagramの利用が思春期のメンタルヘルスに及ぼす影響を理解することは極めて重要です。なぜなら、この知見は脆弱な立場にあるこの年齢層における健全なソーシャルメディア利用を促進するための介入策やガイドライン策定に役立つからです」 
  • 研究目的を支持する論拠が説得力に欠けていたり、十分に納得させるものになっていない。研究目的記述書が過度に長文であったり、専門用語や難解な表現を多用している。また、同じ情報が他のセクションでも重複して記載されている場合がある。 
    • 例:「本研究では、Instagramプラットフォームの利用と思春期人口の心理的ウェルビーイングとの多面的な関係性を解明することを目的とし、混合研究法を用いてこの重要な問題を包括的に理解することを目指します」 
    • 改善例:「本研究では、Instagramの利用と思春期のメンタルヘルスの関連性を調査することを目的とし、混合研究法を用いてこの重要な問題を包括的に理解することを目指します」 

まとめ 

これまでに学んだ研究の意義記述に関する要点を簡潔にまとめます: 

  • 研究の意義記述は、学術論文において不可欠な要素であり、研究を実施するに至った根拠を明確に伝える役割を果たします。 
  • この種の記述は、学術雑誌の論文、研究助成金申請書、学位論文など、様々な学術文書で用いられ、いずれも研究の信頼性を高め、その意義を読者に納得させるという共通の目的を持っています。 
  • 典型的な研究の意義記述では、当該分野における既存の文献と研究成果、未解決の研究課題、そして自身の研究がもたらす影響について幅広く論じます。 
  • 研究の意義記述は、明確で簡潔、かつ説得力のあるものでなければなりません。専門用語の過度な使用は避け、平易な表現を用いることが推奨されます。 

よくある質問  

Q1.  研究の理論的根拠はいつ記載すべきですか?

A1. 研究の理論的根拠を記載するタイミングは、作成する文書の種類によって異なります。提案書や助成金申請の場合、研究実施前に理論的根拠を記載することで、資金獲得や承認プロセスをスムーズに進めることができ、関係者全員に研究の方向性を明確に示すことができます。

一方、学位論文や学術論文の場合、研究実施後に理論的根拠を記載することで、研究の正当性をより明確に立証することが可能です。研究目的を設定するために研究前に概要を作成することはできますが、最終的な理論的根拠は研究を完了し、記載した事実関係を確認した後に確定させるべきです。 

Q2. 研究の理論的根拠と序論の違いは何ですか? 

A2. 研究論文における序論セクションは、通常要旨の次に位置する最初のセクションです。このセクションは、見出しの有無にかかわらずいくつかの小項目に分けられ、主に以下の内容を網羅します:

研究の背景を設定して文脈を明確にすること、当該テーマに関する既存研究を簡潔にレビューすること、そして研究の理論的根拠を示すことです。したがって、研究の理論的根拠は通常、論文の序論セクションの一部として記載されます。 

Q3. 研究の理論的根拠に個人的な見解を含めても構いませんか?  

A3. 研究の根拠には、可能な限り確立された科学的根拠に基づく情報を含めることが理想的です。個人的な見解は主観的な偏りが生じやすいため、主張を裏付ける客観的な事実やデータを提示することが極めて重要です。

また、所属する学術機関や出版社のガイドラインを確認し、他の論文でどのように扱われているかを参考にするのも有効です。   

Q4.  研究の理論的根拠において出典を明記する必要がありますか? 

A4. はい、研究論文や学術文書の他の部分と同様に、根拠部分においても出典を明記することが必須です。これは研究の信頼性と真正性を確保するためであり、研究の正当性を裏付ける上で重要な役割を果たします。

さらに、読者があなたの主張を検証したり、さらなる研究のために当該研究を参照したりする際の手助けにもなります。 

Q5. 研究の根拠をより説得力のあるものにするにはどうすればよいでしょうか? 

A5. 助成金申請や研究提案書などの文書において、説得力のある研究目的の記述は、資金獲得や助成金申請を成功させる上で極めて重要です。この目的を達成するためには、記述に使用する言語が研究目的とその根拠を明確に正当化し、説明するものでなければなりません。明確性、簡潔性、具体性は効果的なコミュニケーションに不可欠です。以下に、研究目的の説得力を高めるために使用できる表現例をいくつかご紹介します[4]。 
  
・本研究の目的は、…に関する知識の空白を埋めることにあります 
・本研究でこの方法論を採用したのは、より効果的に研究課題に対処できるためです 
・本研究アプローチは、…に関する実践的な課題解決の必要性に基づいています 
・本研究は…に関する理解を深める点で意義があります 

このように、研究目的は研究内容を簡潔にまとめたものであり、これを用いて読者に対して研究の信頼性と新規性を説得的に示し、より広い視点からその重要性を説明することができます。 

参照

  1. Wojcik M. Research rationale. MW Editing. Published February 12, 2025. Accessed February 13, 2025. https://www.mwediting.com/research-rationale/ 
  2. How to write the rationale for research? Pubrica. Published June 29, 2021. Accessed February 17, 2025. https://pubrica.com/academy/physician-writing/how-to-write-the-rationale-for-research/ 
  3. Rationale for research: Writing tips & examples. Accessed Feb 18, 2025. https://editverse.com/rationale-for-research-writing-tips-examples/ 
  4. Abbadia J. How to make rationale in research: A thorough overview. Mind the Graph. Published Aug 13, 2023. Accessed February 16, 2025. https://mindthegraph.com/blog/how-to-make-rationale-in-research/#:~:text=Effective%20communication%20is%20crucial%20when,a%20couple%20of%20such%20examples 

Paperpalは、学生や研究者が従来の半分の時間で2倍の量の文章を執筆できるようサポートする包括的なAIライティングツールキットです。21年以上にわたるSTM(科学・技術・医学)分野の知見と、数百万件の研究論文から得られた分析データを活用し、学術ライティングの深化、言語編集、投稿準備支援など、より質の高い文章をより迅速に作成するための包括的なソリューションを提供します。 

正確な学術翻訳、文章リライト支援、文法チェック、語彙提案、生成AIによる人間レベルの精度を機械速度で実現するサポート機能をご利用いただけます。無料でお試しいただけるほか、月額4,400円からのPaperpal Primeプランにアップグレードすると、一貫性チェック、剽窃防止チェック、30種類以上の投稿準備確認機能などのプレミアム機能が利用可能になります。 

Share it on FacebookShare it on TwitterShare it on LinkedinShare it on Email

You may also like

Your Paperpal Footer